STORY

新しい世界への挑戦は、
雷様も食べたい手打ち蕎麦

デービッドとともにタイソンズを作ってきた自分ではあるが、会社の基盤が安定してくるにつれ、アメリカンだけではなく他の料理にも挑戦したくなってくる。他の世界の料理人が持つクリエイティビティと、自分たちがタイソンズで培ってきたホスピタリティを組み合わせることで、新しい世界が開けるのではないかと思っていた。

そんななか、和食に挑戦する機会がついにやってきた。自分が以前より関わっていた和食の会社の社長であり、「和のクリエイター」と尊敬する佐藤幹氏より、蕎麦を打てるスタッフがいるので一緒に蕎麦屋をやらないかとのこと。プロジェクトがスタートし手打ち蕎麦向きな小型の物件を探しはじめたが、なかなかうまく見つからず時間だけが過ぎていく… そこに前より親交のあった方から、自社ビルを建て替えているので一階でお店をやらないかという素晴らしいタイミングの嬉しい申し出。

探していたサイズより少し大きい箱ではあったが、渋谷駅から近く青山通りと明治通りという東京でも有数の人通りがある道に挟まれつつもなぜか静かな通りにあるその物件は、採光もよく大人が目的をもって通う店にはピッタリな条件に思えた。上質な和食をやるなら、上品さにかけては天下一品なKROW長﨑氏に依頼し、佐藤氏も含めて何度も打ち合わせを重ね、和食でありながらもレストラン感あふれる上質な空間ができた。また佐藤氏の店で働く若き水墨画家、立川瑛一朗君の作品が店内や個室を飾っている。

さて店名は… ある人が提案してくれることになり、開口一番「おそばにしましょう。」 え?おそば?「はいそうです、蕎麦屋のおそば」… しばしの沈黙ののち、彼が次に挙げてくれたのが「雷庵」だった。語感のみで、確か特に意味はなかったような… 

ところが、である。オープニングレセプション当日、これまで数々のレセプションで一度も雨を経験したことのない私たちは、晴れ予報に当然のごとく安心していた。しかしパーティーが佳境に入ったその時、あれ?と思って外に出ると、空に次々と現れる稲光… 「雷様が来た!」 予報を無視してやってきた突然の雷雨に腰が抜けそうになりながらも、何か不思議なものを感じた夜だった。ちなみに店内の水墨画は、窓から店内をのぞき込む雷様の顔である…