STORY

東京初の本格BBQを堪能できる空間は
大人が気軽に集い自由に食べて飲んで寛ぐ場所

ビジネスをやっていると、不思議な感覚に襲われることがある。それは出会う人とのつながりやそのタイミングであったり、あるいは過去の出会いややりとりがある日突然ひらめきのような感覚でアイディアに結びついて、まるでそれが運命だったかのように感じたりする瞬間だ。シカダ移転もそんなことから生まれたプロジェクトだったが、その開業も落ち着いた2012年冬、突然舞い込んできた話がまた次のきっかけを生んだ。

「うちの店の横のスペースで店をやってみないか?」--- 面識はなかったがビーコンの常連でもあったアメリカ人社長が会いたいというので新しいシカダでランチをしたところ、待っていたのはその意外な一言だった。聞けばデニムコンセプトのショップには横に小さな店舗区画があり、イメージにあった店に入ってほしかったためすべて借り上げていたものの、テナント候補との交渉が物別れに終わり宙に浮いた状態であるとのこと。

場所はキャットストリート、小箱で2フロアに分かれたその物件は、これまでの出店場所とは明らかに環境が異なっていたため普通なら迷うか断る案件だった。ただ、いつも物件を見る時はそうするように、現地へ行ってその場所に座りそこにあるべきライフスタイルやイメージについて思いを巡らせていたところ、それまで頭の引き出しにしまっていた事がふっと浮かんで一つにつながり、なんだか楽しそうなプランが出来上がってしまったのだ。

その理由の一つは、NOZY珈琲を立ち上げた能城政隆氏との出会い、そして彼が言った一言だった。スタッフの紹介で彼に初めて会ったのは、代官山アイヴィープレイスの開業から数ヶ月経った2012年夏。彼の考え方に共感し、レストランのすべての味を決めているデービッドと担当者へとつないで試飲会を行った。ところが結果は残念ながら不採用…. そしてそれから半年以上のあいだ彼に会うことは一度もなかった。ただ初めて会った時に彼が何気なく言った一言----「いつか表参道でコーヒーショップをやりたいんです」という言葉が大きな鍵となる。アメリカではサードウェーブと呼ばれる新しいコーヒーのトレンドが来ていることは知っていたものの、それまでコーヒーを飲まなかった自分がまさかその世界に関わるとは思ってもいなかったが、キャットストリートに座っていたその時、なぜかその言葉を思い出したのだ。「コーヒー、いいかも!」

そしてもう一つの大きな理由は、ある物件を見に行った軽井沢で長年のパートナーであるデービッドが言った一言だった---「How about a BBQ restaurant?」 その時は店をやることもなく気にも留めなかったその言葉が、もう一つの大きな鍵となる。この数年で東京にはクラフトビールブームが訪れ色々な店が出来ていたが、東京23区ではもはや唯一と言っていいマイクロブルワリーを持つ自分としては、「TYのビールも飲めるレストラン」ではなく「TYのビールが主役になるクラフトビアバー」をやってみたいという思いがあった。デニムにはピッタリだとは思ったが、ただ単なるビアバーにはしたくなく、何か強い個性が必要だと思っていた。「そうだ、BBQ!」

この組み合わせは、考えれば考えるほどすべてが理想的だった。アメリカ西海岸発で焙煎所を併設し気取らずに豆の美味しさを追求するサードウェーブ系のコーヒーコンセプトや、アメリカ中西部や南部生まれの料理で男たちが腕を競い合うBBQ料理。そしてうちのクラフトビールやアメリカで若い造り手がこだわりを持って造るクラフトスピリッツというコンセプトは、横のショップが提案する無骨だが存在感のあるデニムコンセプトとこれ以上ないマッチングだし、キャットストリートの客層を考えればピッタリの使いやすさではないか。

早速能城氏に会い話してみたところ、興奮した様子で「生産量が増えてきたので、ちょうど焙煎所を移転して大きくしようと思っていたんです」。二子新地に場所を見つけていたというが、慌ててそれを止めてもらうという絶妙のタイミングだった。また一方で東京のマーケットを見てみれば、クラフトビールのバーで自分が満足できる食事を出しているところは少なかったし、BBQレストランもクオリティの高い本物を出しているところはあまりない状況で、その2つを備えた店は成功するに違いないと思った。アメリカ人社長に提案してみたところ気に入ってもらえ、プロジェクトはスタートすることとなった。

そこから開業までは楽しくあっという間に過ぎた時間だったが、今回はキーパーソンとの間でも様々なつながりがあったし、ビルオーナーの会長はアメリカ文化を非常に好むと同時になんと父親とジムで話す間柄だったことがわかりスムーズな開店につながった。そうした強い縁に恵まれて生まれたこのプロジェクトは、これまでのレストランとはちょっと違った世界観を持っていて、作っている自分も楽しかった。「企画していて楽しい店は、必ずうまくいく」---- その感覚を大切にしながら、キャットストリートのランドマークとなるお店を目指していきたい。