STORY
都会の暮らしに広がる
心安らぐ豊かなライフスタイル
色々な縁があってシカダの表参道への移転が決まった時、土地だけで400坪ある空間をどう活用するかは大きな課題だった。奥の本棟と庭をシカダに使うことは当初から決めていたが、前面にある広い駐車場と前に細長く伸びる居住部分は、滅多に開くことのなかった門のおかげでそれまで広大な猫の昼寝場所になっていて、その使い方は全体のイメージを左右する大きなポイントだった。
駐車場や車回しを作るといった考え方もあったが、駅からの距離や時代の流れを考えればそれももったいない。シカダと違う使い勝手の店を作るのが良いと思い、奥が非日常的な都会のリゾートになるのであれば、手前は地元の人が日常的に使うスペースにしようと考えた。
すぐ近くに住んでいた自分の眼で見て、地元にあればいいのにと思っていたものは2つ。緑のある公園と美味しいパン。子供連れやペット連れも多いこの近所で住民がゆっくりできる空間はなかったし、粉から作るベーカリーはコストが合わずなかなか都心ではできない。そんななかうちのベーカリーはレストランに併設して一定の売り上げが見込めるため、いわゆるスクラッチからパンを作ることができる。細長い居住部分は壁が多く使いにくかったが、地元の人が朝から夜まで気軽に過ごせる使いやすい店を目指し、ベーカリーとそこで作るパンを美味しく食べられるオールデイカフェを開けることにした。
入り口からシカダがある奥へ向かって、右手の建物にカフェとベーカリー。そしてシカダへの動線を挟んだ左手には顧客がゆったり過ごせる公園的な空間を作ろうと思い、デッキ張りの空間に緑を一杯植え、その真ん中にシンボルツリーとしてクスノキを植えた。しかしオープン直前、植えた直後のまだ根付かないうちに大型台風がやってくるという危機!心配になって吹き荒れる嵐のなか深夜に見に行ったところ、やはり心配して来た現場監督と鉢合わせ。そんな愛情を受けつつ表参道に根を下ろした木は、今も庭の中央でクリスクロスを見守りつづけている。