STORY

自由な発想が特別な世界を創り出す
遊び心溢れるクラフトビアバー

「フードトラックが欲しいです」 ― ケータリングマネージャーの何気ない一言がすべての始まりだった。これまで色々なイベントに出る度にトラックや機材をレンタルしてきた彼らにとって、それは自然な考えだった。しかし固定観念や先入観という発想力にとっての天敵により、この企画も最初は流れそうになる ― 「えっ、うちがあんなの作るの?」 これまで国内外で見てきたトラックは、多少の違いこそあれ決して創造力を掻き立てられるような存在ではなく、私の最初の反応は今から思えば非常に残念なものであった。

そんな先入観は、しばらくしてあるスタッフが見せてくれた一枚の写真によって打ち破られる。今まで見たこともないようなフードトラックの写真を見た瞬間、「そうだ!これだ!」という衝撃に思わず言葉を失ったのだ。

そこに気づいたらあとは早いもの!(と、少なくともその時はそう思った。)タイソンズの強み ― それはこれまで、それぞれに強いスタイルを持つ店舗を作り、商品やサービスが空間と一体になった世界観を作ってきたことに他ならない。うちが作るなら、フードトラックは見下ろされながら窓口で商品を受け取る移動販売車ではなく、中に入ってその世界観のなかでビールや料理を買う「体験」自体を楽しんでもらう、いわば移動する店舗そのものであるべきだ。しかも誰も見たことがないようなものを作って皆を驚かせてしまおう、とイタズラ心に助けられ思考が止まらなくなった。

まずは保健所を訪ねてみると、移動販売車ではなく座席を持つ「食堂車」はその時点で東京都に事例がないとのこと。その話でさらにやる気が出た自分はトラックを探し始めるが、これには鼻の突き出たボンネットトラックしかない!と思ったものの国内では既に製造されておらず、最終的に北米でしか販売されていない日本メーカーのトラックを輸入し、日本の法律に合わせて改造することになった。だが初めは長くて半年もあればとタカをくくっていたものの、そこからが長い道のりになる。東京都初の水上ラウンジでは建物と船の法律両方が適用され悩まされたが、今回は自動車という製品に対する国境の高さを身にしみて感じつつ、当初の予定から(結局それは自分が勝手に思っていただけの予定なのだが)1年近く遅れ、1年半という歳月を経て走るクラフトビアバー「エル・カミオン」は2016年6月にデビューした。

このトラックは、人が多く来る固定の店を作りソーシャルメディアに熱心でなかった自分たちにとって、店舗のあり方や世の中とのコミュニケーションの取り方という意味でも新しい考え方を教えてくれた。またコストは想定の2倍、でもどうせ作るなら中途半端なものを作るよりも人に衝撃を与え思わず写真を撮りたくなるものを作る ― その狙いは街中を走ってみると強く実感することに。でもすべては、先入観による思い込みにとらわれていたら起きなかったこと。経験あるがゆえの直感の怖さ、そしてそこから離れて発想してみることの重要性は、クリエイトすることを何より大切にする自分が強く感じた反省点だった。そうやって生まれたエル・カミオン、街で見かけた人たちに衝撃が走ることを願って!