STORY

人が集まる空間​は
そこに暮らす人々​の生活から生まれる

どんな街に店を開くか ― 自分にとって、店舗の立地は出店を考える際に最も重要視することだ。これまで天王洲を除けば渋谷・表参道近辺に集中してお店を開いてきた。これは、ストーリーを持つ店はそこに来る顧客も含めて世界観だと考えるなか、感度の高い人が多く集まる街であること、個人的にも大好きで土地勘がある街だということ、そして現実的に管理しやすいこと、が大きな理由だった。

そんななか会社宛に届いた一通のメール。麹町で期間限定のお店をやらないかとの話に、正直なところ最初は否定的だった。飲食業界では滅多に聞かない麹町というエリアは、表参道から地下鉄で僅か3駅、車でも10分程で着く街なのに行った記憶がなくイメージが全く湧かない。一度はやんわりと断ったものの、再度依頼がきてストリートビューで街を見てみたら空が広く意外と良さそうなことに気づく。

先方と会いスイッチが入ると楽しくなってきて、いつものように平日・週末、昼・夜と時間を使って街の空気感を感じながら、どんな店を作るべきか考え始めた。そしてこの街を知れば知るほど、うちにピッタリな街ではないかと確信する。由緒正しい高級住宅街には昔からの富裕層も多くいれば、人気校が多いため若い家族層も多く住む。昔からのビジネス街でありながら新しい感性の会社もいるし、大使館も多く外国人が多い。しかも多くの友人が周辺に住んでいることがわかったし、何より自分が通っていた幼稚園のすぐ近くではないか!実は縁のある街だったのだ。オーナーからは地元のためになる店舗をということだったが、かしこまった店ではないと思ったので、良い物を知る人たちが日常的に普段着で使ってくれ、子連れでも気楽に使えるような、英語で言う Neighborhood Place(近所のお店)がテーマになった。

そしてできたのがNo.4。パンや料理などフードのディレクションは飲むことが大好きなベーカリーシェフに任せてみたが、パン・ピザ・クラフトビール・自然派ワイン・コーヒーなど私たちならではのクラフトを大切にしつつ、彼の考え方でもあるアレルギーやヴィーガンなど制限のある人でもみんな一緒に楽しんでもらえるというコンセプトで、何屋とも言いきれない不思議でイマドキな感覚のお店ができたと思う。

うちが麹町という立地を選んだことは少なからず業界を驚かせたと思うが、週末など人通りの少なかった街に人が集まる空間ができて、今回のプロジェクトはあらためて立地選びの大切さと、街に新しいライフスタイルを生み出す飲食店の力というものを感じさせてくれた。そういう立地を選び、店を作り育てる楽しみ。だからレストランビジネスはやめられない!